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  1. Section.2 個々人の免疫学的差異を踏まえた創薬研究

Section.2
個々人の免疫学的差異を踏まえた創薬研究

ヒト臨床検体と動物モデルとしての遺伝子改変マウス、非ヒト霊長類サル検体をside by sideで比較検討しながら、ヒト臨床応用に直結するような免疫学的解析系の構築、バイオマーカーの探索、ならびに新規予防、治療法の確立などの展開を目指しています。大きくは、がん関連研究と感染症関連研究を柱としています。

◆ 感染症関連

1. エイズ根治を目指した免疫療法の開発

HIVは後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因ウイルスであり、同定されてから30年以上経過した現在でも、全世界で約3500万人感染者がいます。日本国内においては感染者数が増加傾向にあり、2万人近い感染者がいると考えられ、依然として重大な新興・再興感染症の一つです。エイズ治療に関しては、これまで複数の抗レトロウイルス薬が開発され、また多剤併用療法(cART)が確立されたことで、血中ウイルス量を検出限界以下にコントロールできるようになりましたが、一方で体内からウイルス潜伏感染細胞を完全に除去する事はできず、cARTを開始すると一生涯薬を飲み続けなければなりません。つまりHIV-1治療において、cART治療後も体内に残る潜伏感染細胞を排除することが、いわゆる機能的治癒、エイズ根治に繋がると考えられます。

この機能的治癒を達成するためには、1) 潜伏感染細胞を再活性化させ、細胞変性効果(CPE)による感染細胞死を誘導すること、2) CD8 T細胞を中心とする抗HIV-1免疫反応の強力な活性化を誘導することが重要性です。そこで我々は現行cARTと合わせて行う、上記2つの免疫反応を強力に誘導することのできる新規免疫賦活化療法の確立を目指し研究を行なっています。

【概要図】エイズ治療を目的とした新規T細胞性免疫活性化療法の研究
【概要図】エイズ治療を目的とした新規T細胞性免疫活性化療法の研究

2. 新規COVID-19ワクチン開発研究

COVID-19関連研究
新型コロナウイルスSARS-CoV-2は2019年12月に中国湖北省武漢市で初めて報告されて以降、いまだに全世界に広がっています。そのような状況の中、ファイザー社やモデルナ社のmRNA型ワクチンが早期に承認され、全世界の人々に接種されるようになりました。一方で新たなプラットフォームであるmRNAワクチンの、ヒト体内における反応については未だ解明されていないことが多くあります。また、海外製のワクチンに依存しており、未だ国産ワクチンは承認まで至っていません。このような状況の中、私たちは次のテーマについて研究を進めています。

1. 細胞性免疫の重要性の解明
COVID-19 mRNAワクチンは、特に強力な抗体反応を誘導することで感染防御に寄与しますが、新たに出現した変異株であるオミクロン株に対する効果は限定的でした。他方、感染細胞を直接除去する細胞傷害性CD8 T細胞(CTL)は変異株に対する反応性を示し、ブレークスルー感染後の重症化抑制に寄与していると考えられます (Nogimori et al, Frontiers in Immunology, 2023)。つまり、今後出現するであろうSARS-CoV-2変異株や未知のコロナウイルスに対応するためには、いかにCTL反応を効率良く誘導するかが、パンデミックを抑える鍵となります。しかしながらブレークスルー感染時の重症化抑制に寄与しうるCD8 T細胞の表現型については充分な解明がなされていない現状にあります。我々は、大阪公立大学との共同研究により、mRNAワクチン接種を行った方を長期間フォローし、生体内で誘導されている免疫反応とその後のブレークスルー感染を比較検討することで、ブレークスルー感染を抑え込む免疫メカニズムの解明に取り組んでいます。さらに大阪大学との共同研究により、免疫抑制剤を服用している肝移植患者さんにおけるmRNAワクチン効果の検証を行なっています。このような貴重なコホートを利用させていただき、mRNAワクチン効果とCD4, CD8T細胞反応の関連性を追求することで、mRNAワクチンという新たなプラットフォームにより誘導される免疫反応の全体像の解明に取り組んでいます。

【概要図】新規ワクチン開発における当プロジェクトの役割:
有効性・安全性の評価
細胞性免疫の重要性の解明

2. 新型コロナウイルスに対する新規レプリコンRNAワクチン開発
海外製のmRNAワクチンは日本国内でも多くの方に接種されてきました。国産ワクチンに関しては、各製薬会社が開発を進めていますが、いまだ承認されていません。SARS-CoV-2の新たな変異株の出現や、全く新しい感染症の出現に迅速に対応するためには、国内でのワクチン製造プラットフォームを構築することが非常に重要であると考えられています。我々はVLP therapeutics社、名古屋医療センター、北海道大学と共同して自己増殖型(レプリコン)RNAワクチンの開発を行なっています。この研究グループの中で特に我々は、非臨床試験及び臨床試験で得られた血液検体についてハイパラメーターフローサイトメーターを用いて詳細に解析することで、ワクチンの有効性・安全性評価を行なっています。レプリコンRNAワクチンといった全く新しいワクチンプラットフォームを構築することで、新興再興感染症出現時に国内で迅速に対応可能となることを目指しています。
尚、このプロジェクトは、AMED「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」に採択されております。

【概要図】mRNAワクチン効果における細胞性免疫反応の重要性の解明
2. 新型コロナウイルスに対する新規レプリコンRNAワクチン開発

3. 新型コロナウイルスに対するCTL誘導型タンデム型ワクチン開発
私たちは、SARS-CoV-2に対する有効なCTL反応を誘導し、様々な変異株にも対応できるSARS-CoV-2ワクチンの開発を目指しています。VLP therapeutics社、名古屋医療センター、北海道大学と協力し、実用化を見据えた上で、CTL反応を効率よく誘導する抗原(エピトープ)の探索を行い、それを人工的に複数種繋げたself-amplifying RNA (saRNA )ワクチンコンストラクトの設計を試みて研究開発を行なっています。尚、このプロジェクトは、AMED「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業:重点感染症等に対する感染症ワクチンの開発」 に採択されております。

【概要図】新型コロナウイルスに対するCTL誘導型タンデム型ワクチン開発
3. 新型コロナウイルスに対するCTL誘導型タンデム型ワクチン開発

3. mRNA/saRNA ワクチン開発基盤の構築

under construction

4. 万能インフルエザワクチンの開発

インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする感染症です。毎年世界各地で流行がみられ、毎年約1500万人前後がインフルエンザに罹患しています。インフルエンザウイルスには多型があり、特にA型とB型が世界的な流行を示しています。ウイルス粒子の表面には糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)が突出しており、その組み合わせにより複数の亜型(H1N1、H3N2、H5N1など)が存在し、非常に多様性に富んだウイルスであることが知られています。

現行の季節性インフルエンザワクチンとして用いられているスプリット型ワクチンは、流行する型を予測し、一般的にはH1N1から1種類、H3N2から1種類、B型から2種類、合計4種類のウイルス糖タンパク質に標的を定めた4価ワクチンとなっています。しかしながら、HAは変異が生じやすく、変異が生じたウイルスにはワクチン効果は有効ではないため、変異ウイルス株にも対応可能なワクチン開発は急務となっています。加えて、高齢化社会が進行するにつれ、高齢者における感染症対策の一環としての効果的なインフルエンザワクチンの開発ニーズは高まっています。

我々は国立感染症研究所と大日本住友製薬株式会社との共同研究において、従来の製造方法とは異なったワクチン抗原と、大日本住友製薬株式会社において独自に開発中のアジュバントを組み合わせた万能インフルエンザワクチンの開発研究を行なっています。この万能インフルエンザワクチンのウイルス抗原の精製方法は、国立感染症研究所免疫部の高橋先生のグループにより開発されたもので、ワクチンにより「HA抗原の中でも変異が起きにくく、かつ異なるHA 型のウイルス間でも保存された領域に対する抗体」を誘導できる可能性が示唆されています。このワクチン抗原に大日本住友製薬株式会社により開発中の新規アジュバントを組み合わせることで、夢の万能インフルエンザワクチン開発の実現を目指しています。

我々のグループは、本ワクチンの実用化に向け、特に霊長類モデルにおける免疫学的解析を次世代型ハイパラメーターフローサイトメーターを駆使して行い、その安全性と有効性を評価することで、本共同研究に貢献しています。

【概要図】免疫老化現象を踏まえた感染症に対する創薬研究

5. functional cureを可能とするB型肝炎ウイルスに対する免疫学的研究

B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus:HBV)はB型肝炎の原因ウイルスであり、HBV感染によるB型慢性肝炎患者の自然経過においては、約90%は進展せず、約10%でのみ肝硬変、肝がんへと進展していきます。これら病態を決定する要因の一つとして、免疫反応の関与が示唆されています。 加えて成人期に初感染すると、免疫系が正常の場合は95%の症例でHBVは排除されることや、HBVワクチンに一定の効果があることから、HBV制御における免疫反応の重要性を疑う余地はありません。他方、現在のB型慢性肝炎・肝硬変の治療には主に核酸アナログが用いられ、HBVDNA量の低下によって肝硬変や肝がんへの進行はある程度の抑制が可能となっています。しかしながら、核酸アナログを長期間服用しても、約3-4%しかHBs抗原が消失しないのが現状です。つまり核酸アナログにより血中のHBV DNAが検出感度以下になっても、多くの症例ではHBV複製鋳型やHBVゲノムは肝細胞に残存しており、これが原因となって肝がんをきたすことがあります。 それゆえ現在の臨床的な治療目標は、発癌リスクと相関すると考えられるHBs抗原の消失です。

B型肝炎ウイルスに対する免疫学的研究によって、機能性治癒(functional cure)が可能となる可能性があることが示唆されています。機能性治癒とは、ウイルスの完全な除去ではなく、ウイルスを制御し、肝臓の損傷を最小限に抑えることによって、肝臓の炎症が治まることです。機能性治癒を実現するためには、肝臓細胞内のウイルスを排除することが必要であり、これには、HBV感染細胞に対して免疫反応を起こすことが必要です。そのために、B型肝炎ウイルスの免疫学的研究が重要となります。これまでに様々な免疫学的研究によって、B型肝炎ウイルスに対する免疫反応のメカニズムが部分的に解明されていますが、B型肝炎ウイルス特異的なT細胞が、HBVの様々な表面抗原(HBsAg)やコア抗原(HBcAg)に対する応答についてはまだ全容が解明されておりません(図)。

我々はfunctional cure(機能的治癒)を達成するために、まず核酸アナログによる治療によりHBV DNAを検出限界以下へと減らし、その上で残されたHBV感染細胞を免疫反応により排除することを目指して、国立国際医療センター肝炎免疫研究センターをはじめとする多くの国内共同研究先と密接に連携し、本研究を展開しています。

【概要図】functional cureを可能とする
B型肝炎ウイルスに対する免疫学的研究
B型肝炎治癒における課題
① 血液でのHBV特異的CD8T細胞のモニタリング
② 機能的治癒への我々のアプローチ

6. HTLV-1感染症(ATL/HAM)関連病態予測サロゲートマーカーの探索研究

under construction

◆ がん関連

1. 膵がんをはじめとする難治性がんに対する新規がん免疫療法の開発

膵臓がんは消化器がんの中でも非常に予後が悪く、全体の5年生存率は10%に満たないとも言われていますが、その最大の理由は、早期診断が極めて難しいという点です。これまでにも早期診断マーカーを発見するために、たくさんの研究が行われてきましたが、既存のものより有用な腫瘍マーカーはいまだ見つかっておらず、診断時に唯一の根治治療である手術療法の適応になるのはわずか30-40%というのが現状です。さらに、抗がん剤が効きにくく、有効な抗がん剤の種類も少ない点も膵臓がんが予後不良である原因の一つです。

膵がんをはじめとする難治性がんに対する新規がん免疫療法の開発は、現在がん治療の最前線に位置しています。この分野では、T細胞を活性化させてがん細胞を攻撃する方法が注目を集めています。T細胞は、免疫系の中でも主要な細胞の1つであり、免疫応答の中心的な役割を担っています。T細胞は、がん細胞を攻撃することができますが、がん細胞が過剰な免疫反応を防ぐために、免疫系から逃れる方法を発達させています。これを免疫監視逃避と呼びます。がん免疫療法では、この免疫監視逃避を回避するために、T細胞を活性化させる方法が用いられます。特に、免疫チェックポイント分子阻害という方法が有名です。これは、T細胞の活性化を促す抑制性分子(免疫チェックポイント分子)に対する阻害抗体を投与することで、T細胞のがん細胞への攻撃を促進します。一例として、がん細胞から産生される免疫抑制分子であるPD-L1と、T細胞表面に存在するPD-1という免疫チェックポイント分子の相互作用を阻害する抗体が開発されました。これにより、T細胞の活性化を促進することができます。また、T細胞を活性化させるための抗原として、がん細胞から産生されるタンパク質や、がん細胞の表面に存在する特定のタンパク質を利用する方法もあります。これらのタンパク質は、T細胞に認識されることで、がん細胞を攻撃するT細胞が増加することが期待されます。さらに、T細胞によるがん細胞攻撃を促進するために、免疫チェックポイント阻害剤や細胞治療によるCAR-T細胞療法など、多岐にわたる治療法が開発されています。近年、上述の免疫療法も他癌では有用性が認められているものの、膵臓がんにおいてはその有効性が乏しいことが分かっています。なぜ膵臓がんはこのような治療抵抗性を示すのか?抗がん剤・手術により免疫系は、どのような影響を受けるのか?など、膵臓がんに罹った状態で生体にどのような免疫反応が起こっているのかを含め、その病態を解明することは、今後、膵臓がんに対する有効な治療法を確立していくためにも非常に重要であると考えられます(図①)。我々は多施設(大阪大学外科学講座消化器外科学教室、大阪国際がんセンター消化器外科、大阪急性期医療センター消化器外科)との共同研究により、膵臓がんの患者さんの様々な時相における血液中の血球(主にTリンパ球)や手術時に取得した組織の免疫学的プロファイルを次世代型ハイパラメーターフローサイトメーターや遺伝子発現解析を用いて解析し、膵臓がんに対する免疫応答反応のメカニズム解明を目指しています(図②)。さらに、それら研究成果から、膵臓がんに対する早期診断、治療効果判定、予後予測などに有用となるマーカーの同定を試みます。

【概要図】膵がんをはじめとする難治性がんに対する
新規がん免疫療法の開発
膵がん免疫療法への課題
① 臨床検体収集ネットワーク基盤、及び臨床情報と紐付いた臨床検体の免疫学的解析の例
② 治療過程を患者ごとにフォローできるシーケンシャルな検体収集

2. メラノーマに対する新規がん免疫療法の開発

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